*

ドル高の解釈の変化に注意

すっかり材料視されなくなった米雇用統計だが、先週末に発表された昨年12月の米雇用統計によると、非農業部門就業者数は前月比14万人減と、8カ月ぶりにマイナスを記録した。市場予想は7万1000人増加だった。失業率は6.7%と横ばいだった。最近の雇用関連の指標が悪化傾向にあったことから、非農業部門雇用者数は減少の可能性もあるとみていたが、やはりそうなった。しかし、市場の反応は全くない。これが市場の現状である。将来への期待なのか、株価も上昇し、主要株価指数が史上最高値を更新している。

このような解釈になるのは、市場が先例にない大規模な金融・財政刺激に過度に期待しているからであろう。バイデン新政権が20日に発足するが、追加の経済刺激策を催促する動きもみられる。また、金融政策もそれを後押しするかのように、FRB関係者からは緩和策の継続をコミットするかのような発言が聞かれる。クラリダFRB副議長は8日、新型コロナウイルスのワクチン実用化が進んでいるため、「21年以降の景気見通しは明るくなり、下振れリスクは後退した」としている。そのうえで、金融緩和策を長期にわたって維持し、景気と雇用回復を後押しすると表明している。

しかし、コロナ感染再拡大は景気見通しの下振れリスクの源泉である。これはクラリダ氏も認めている。同氏は「昨年10-12月期の景気は回復ペースが緩やかになった」としながらも、複数のワクチンが実用化されたことで、先行きに楽観的な見方を示している。FRBはすでに、インフレ率が物価目標の2%に到達し、当面はそれをわずかに上回る水準で推移すると判断できるまで、事実上のゼロ金利政策を据え置くとした新指針を発表している。米国債などの資産を買い入れて資金を供給する量的緩和策も、これに連携しているとし、今後も緩和策は続くことをコミットしている。

FRBは、ゼロ金利と量的緩和は景気に強力に下支えをもたらし、持ち直しが進展するまで継続するとしており、投資家からすればこれほど心強い下支え材料はない。さらに、クラリダ氏は「経済活動と雇用がコロナ危機前の昨年2月の水準に戻るにはしばらくかかる」としており、金融緩和策は長く維持されるとしている。コロナの感染拡大の経済への影響は無視し、政策期待で市場は動いている。楽観的になることは悪いことではない。しかし、いまの状況はかなりそれが行き過ぎているようにも見える。また、直近では米金利が上昇してきた。これまでの解釈と違う形でドル高が語られ始めている。まさに市場の矛盾であり、都合のよい解釈が聞かれるようになってきた。

こうなると、市場は終わりである。早ければ今週中、遅くとも来週からはこれまでの楽観を戒めるような出来事が起きると考えている。無論、株価は崩れるだろうその際に、債券が買われて米金利が低下しても、今度はドルが安全資産として買われることも十分に想定される。都合のよい解釈は長くは続かないだろう。そろそろ注意が必要なのではないかと考えている。


 - ドル円